ノラ犬キジ姫の気になるデリー

デリーの気になるニュースを勝手に解説

どっちが偉い?デリー首相VSデリー副知事

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デリー副知事アニル・バイジャル(左)とデリー準州首相アルヴィンド・ケジリワル

デリー準州首相アルヴィンド・ケジリワルは、今年2月のデリー議会選挙で自身の率いる政党AAPが圧勝し、市民の絶大な信託を得て首相続投した。紛れもなく、デリー準州政府の首長のはずだ。しかし、その地位が、デリー副知事と逆転することがある。

 

コロナ第一波時のデリー政府の朝令暮改

デリーは、新型コロナウィルスが流行し始める前にロックダウンを開始したため、当初は新型コロナ感染者数は低く抑えられていた。6月1日に経済再開に踏み切ると、感染者が急増し、第一波を迎えた。6月24日には、新規感染者数が第一波で最多の3,947人となった。病院はひっ迫し、病院をたらいまわしにされる人が相次いだ。

 

ウィルスという見えない敵といかに戦うかをめぐり、デリー政府の対応は混迷を極めた。時系列で見てみよう。

 

6月1日

デリー市内の病院崩壊を防ぐため、ケジリワル首相が1週間の州境封鎖を命令。

 

6月6日

デリー市内の検査体制の崩壊を防ぐため、ケジリワル首相が、新型コロナの検査を無症状の濃厚接触者には行わないよう指示。

 

6月7日

ケジリワル首相が州境封鎖の解除を指示。しかし、デリー市内の市立病院と民間病院はコロナ患者の受け入れをデリー市民に限定するよう命令。

 

6月8日

デリー副知事アニル・バイジャルが、前日のデリー政府の決定の取り消しを命令。デリー市民以外の患者も受け入れるよう指示。新型コロナの検査について、無症状の濃厚接触者も検査するよう命令。

 

6月14日

中央政府内務大臣アミット・シャー、バイジャル副知事、ケジリワル首相が会し、デリーのコロナ対策を話し合う。検査数の3倍増、封鎖地区での戸別訪問検査、汽車車両の病床への転換による病床数増加を決定。

 

6月19日

バイジャル副知事が コロナ陽性者全員を5日間コロナ専用施設で隔離するよう命令。

 

6月20日

ケジリワル首相の強い反発を受け、バイジャル副知事は先の命令を撤回

 

その後は、幸い、中央政府とデリー政府の共同戦線が上手く作用し、病床のひっ迫は解消し、新規感染者数は減少へ向かった。

 

非常時には副知事が首相より偉くなる 

ケジリワル首相は、前述のとおり、選挙によって選ばれたデリー準州政府の首長である。それに対し、デリー副知事(Lieutenant Governer)は象徴的な存在である。デリーに知事はいない。デリー首相とデリー副知事の関係は、インドの首相が政府の実権を握り、大統領が象徴的な役割を果たすのと同じだ。

 

それなら、なぜ副知事が首相の決定を覆せるのだろうか。それは、バイジャルとケジリワルのもう1つの肩書きによる。バイジャルはデリー災害管理委員会の委員長、ケジリワルは同委員会の副委員長である。

 

デリー災害管理委員会は、国家災害管理委員会の下部組織だ。国家災害管理委員会の委員長は、インド中央政府のモディ首相が兼任している。災害管理法に記されている国家災害管理委員会とデリー災害管理委員会の権限を要約すると、以下のとおりだ。

 

国家災害管理委員会は、災害の予防や対策に必要と思われる措置を講じる権限がある。非常時には、委員長が単独で必要な措置を決定し、委員会に事後承諾を得ればよい。

 

デリー災害管理委員会は、国家災害管理委員会の決めた措置をデリー準州内で実施する役目を負っている。非常時には、委員長は、デリー災害管理員会の有する権限を単独で行使でき、委員会には事後承諾を得ればよい。

 🔗参考

THE DISASTER MANAGEMENT ACT, 2005 | Disaster Management Division, Ministry of Home Affairs

 

つまり、非常時には、モディ首相の胸三寸ですべてが決まる。そして、モディ首相の決定を実行するために、デリー災害管理委員長の権限がデリー首相を上回る。だから、バイジャル副知事がケジリワル首相に命令ができるのだ。非常事態宣言を発令しても、政府はほとんど要請しかできない日本とは大違いだ。

 

現在、デリーは第二波の真っただ中にある。1日当たりの新規感染者数はすでに第一波の最高を超え、いまだに勢いが衰える様子はない。大手の民間病院では病床がひっ迫し始め、入院を待たされることがあるという。また、それらの病院のICUはすでにほぼ満床だそうだ。

 

幸い、政府は、今のところ第一波時のような迷走はしていない。しかし、感染者がさらに増え、医療崩壊の可能性が出てくると、今のような平静は保てなくなるかもしれない。AAPの率いるデリー政府とBJPの率いる中央政府は、ときに互いの政策をめぐり非難の応酬を繰り広げることがある。しかし、パンデミックとの闘いは、呉越同舟で共闘しないことには切り抜けられないだろう。